ミネラルファンデーションをターゲットに
女性は(男性だってそうだと思うが)三五歳ぐらいを境にしてグッと老け込む。
これには深い理由があるが(あとで述べるとする)、それにしたって個人差はある。
早い人もいれば遅い人もいる。
こうと決めつけられると、どうも私の性格上、反発したくなる。
例外もある、と見せつけたくなった。
それには、この鼻唇溝がどうしても邪魔だ。
あまり時間もないし、手っ取り早く確実にどうにかするには?私の頭の中に浮かんだのは、以前何かの雑誌で読んだ「コラーゲン注射」だった。
もちろんはじめは美容外科に行くということに抵抗はあったが、あまり悠長なことはいってられない。
やってみようかな。
それで悩みが解決されるんだったら…。
ちょうど初夏の少し湿気を帯びた風が吹くころ、私はコラーゲン注射を鼻唇溝に打つことにした。
生まれてはじめてくぐる「美容外科」の扉。
何だかとても緊張して、こんなところを誰かに見られたらどうしよう、などと、何となく後ろめたい気持ちでいっぱいだった。
当時は、いまのようには美容皮層科などはそう数もなく、コラーゲン注射などはほとんどが形成外科の中の美容外科でおこなわれていたのである。
ああいうところは、行ったことがある人は何となくわかると思うが、ふつうの病院とは異なる一種独特の雰囲気がある。
まず、患者がほとんど女性、そして壁には、それこそ雑誌の広告などに載っている「術前・術後」の写真がズラッと貼られている。
そして、何よりも私を驚かせたのは、その病院の受付をしている何人もの女性たちだった。
これは念のためにいっておくが、あくまでその病院のみの光景だと思う。
なんと、その受付の女性たちの顔が、ほとんど同じような顔立ちだったのである。
彼女たちが一様に無表情で、まるで蝋人形のようだった。
」とも、その無気味さを増幅させていた。
怖い……。
そんな感情にかられた瞬間、名前を呼ばれて診察室に入った。
はじめに、腕でのパッチテストをした。
実際の注射は、それから一ヵ月後、何もアレルギー反応が出なかった場合のみおこなわれる。
当時は、すぐに注射できるヒアルロン酸はまだ主流ではなかったため、この待ち時間はどうしようもなかった。
こうして一ヵ月後、無事何のアレルギー反応も出なかった私は、注射を打つこととなった。
誰でもそうだと思うが、注射を顔にするということ自体にはじめはかなりの抵抗があり、当然のごとく痛みもそれなりにあった。
ただし、効果はすぐにわかる。
指で触ると溝のようにへこんでいた部分が盛り上がっているのが明らかにわかるのだ。
なるほど!と私はすごくその効果に満足したのだが、料金は非常に高く、たしか、一○万円ぐらいだったと記憶している(しかし、二回目を受けに行ったときは、注入量が同じにもかかわらず、値段がいきなり一・五倍になっていた)。
なみに、最近主流になっているヒアルロン酸などは中国製のものも出回っており、値段はやはり安いが、安全性に難があるようだ。
また、各クリニックで「スーパー×××」などと勝手に名前をつけているところもあるが、実際何を使っているのか、どこの国でつくられたのかを確認したほうがよいと思われる。
あとで知ったことだが、そもそも、コラーゲンなどの注入剤は海外からクリニックが代理店などを通して輸入しているものであり、どこの病院も同じものを使用している(コラーゲンの場合はザイダームかザイプラストのどちらか)だから、値段の格差はその病院の儲けのちがいところで、そもそもコラーゲン注射なんていうものは、コラーゲン入りの化粧品がほんとうに肌の真皮まで必要な量だけ到達し効果を発揮してくれれば必要ないのだ。
それなのに、注入用コラーゲンが化粧品とはまったく別分野で一九八○年代から存在するのは、化粧品では有効成分が真皮まで届きにくい、ということを暗示している。
最近になって「マイクロコラーゲン」という名前で、真皮まで成分が到達できるとうたったのである。
化粧品も出てきているが、その効果は、宣伝文句にある〃塗るコラーゲン注射″には程遠いのが実情のようである。
ここで、なぜ化粧品の有効成分は真皮に簡単に到達しないのか、真皮に到達すればもっと効果的なことはまちがいないはずなのに、という疑問がわく。
たしかに、肌によいとされる有効成分がそのままの有効性を保って真皮に到達できれば、効果はいかんなく発揮されるはずだろう。
でもなかなかそうはいかない。
化粧品会社も一生懸命研究し、どうにか有効成分を肌の真皮部分まで届けようとしているが(リボゾーム、ナノテクノロジーなどがひとつの有効手段と考えられている)、だいたいが途中で酸化するか(ビタミンCがいい例)、たとえ吸収されても効果を及ぼさないほどの量か、もしくはまったく吸収されないで肌の表面を潤しているだけのどれかである。
それを私は、前述したアンチ・エイジングコスメの臨床テストに参加した際に知り合ったドクターに聞いてみたことがある。
すると、ドクターは当然至極、というふうに答えた。
「そんな簡単に真皮まで到達できたら、それは肌にいい成分だけでなく有害な成分も(防腐剤など)到達してしまいますよね。
つまり、人間の肌がそう簡単に到達させないようにつくられ何だか、当たり前すぎて面白くないかもしれないが、考えてみればアトピーや乾癖のように、肌のバリア機能が失われ、真皮まで容易にいろいろなものが到達しやすくなると、当然刺激にも弱くなり肌に問題が生じる。
なかなか成分が真皮に到達しないというのも、人間が持つ防御機能のしわざなのだ。
こんな話を聞いていたからこそ、私は有効成分を真皮に確実に到達させるための手段として注射を選んだ。
ただし、それでも、自分自身が持つコラーゲンの劣化による老化というものは避けられないため、いくら上から新しいコラーゲンを注入したとしても一時的な効果しか及ぼさない。
ゆえに、こういった注入剤は定期的に、そして一度はじめたら永遠にくりかえさなければならなく人間の身体というものは、ほんとうに外からの人工的なものに対する拒絶、拒否反応は強く、もとに戻ろうとする力はバカにならないものだと、つくづく思う。
もちろん、最近は吸収されにくい物質を混ぜている注入剤なども登場しているが、それもしばらくたつと吸収されない物質だけが体内に残り、その痕がボコボコになったりする。
注射は気休めだった。
どんなものでも、ある程度値段がはるものになるとそれなりの期待をしてしまいがちで、美容外科の手術もこれに該当するだろう。
広告の写真や宣伝文句を見て、自分もあんなふうに変われるかも?と幻想を抱くが、あくまでそれは最大の効果をうたってのものだ。
写真のようにはならないと思ったほうが賢明。
そんな事実を、私も美容外科に出向いてはじめて知ることとなった。
もちろん、コラーゲン注射にまったく不満だったわけではないが、その満足度は六○パーセントといったところだった。
だから、こんな言葉に私はまんまとのせられたのだ。
「コラーゲン注射じゃあ、気休め程度にしかなりませんよ。
もっときれいになりたいならフェイスリフトという手術がありますが、それをやれば顔のラインがとてもきれいになりますよ」私はコラーゲン注射を打つとき、担当した外科医にこれを言われた。
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